わたしたちの田村くん1巻


わたしたちの田村くん (電撃文庫)

わたしたちの田村くん (電撃文庫)


ギャルゲーの文法で描いたライトノベル
第一話「うさぎホームシック」は「不思議少女」松澤小巻シナリオ、
第二話「氷点下エクソダス」は「状態遷移型ツンデレ」相馬広香シナリオ、
この2つを文庫本1冊にパッケージングしました、みたいな。


まぁ、それだけだったら、最近のツンデレブームに上手く乗れた、
ただの単なるラブコメラノベなんですが、さにあらず。


この作品の「ライトノベルとしての」ポイントは、
2つのシナリオが「並列」ではなく、「直列」であること、です。



そもそも、ラノベやアニメ、コミックの類のハーレム型ラブコメと、
ギャルゲーにおけるハーレムというのは本質的に違うものです。
前者、仮にラノベ型としますが、これは天地無用、ラブひな、最近ならシャナだってそう。
それに対する後者(ギャルゲ型)は、ToHeartD.C.のような典型的な純愛モノ。


ラノベ型のハーレムっていうのは、主人公1にヒロイン複数で、
同時並行的に恋愛関係を結ぶことで、本当にハーレムを形成しています。
だから、主人公は一体一を前提とする恋愛関係に対して「鈍感」であることが必要条件。
恋愛に対して真っ向から取り組まず、なぁなぁに形成されていくハーレムですね。


余談ですが、ずいぶん昔に主張した、いちご100%ラブひなの本質的違いはここ。
真中は恋愛関係が一体一なことに自覚的なので、最終的には他のヒロインを切り捨てます。
でも、天地無用は基本的に家族エンド、ラブひなもひなた荘にみんな残ってます。
まぁ、そんな話をここでしたこと、誰も覚えていないと思いますが。


それに対して、ギャルゲ型のハーレムは、
どのヒロインのシナリオでも主人公がモテているので、全体としてハーレムに見えますが、
各シナリオ単位で見て行くと、一体一の恋愛関係で、
基本的に他のヒロインは(プレイヤーの選択しによって)切り捨てられています。


ラノベ型ハーレムは、一対一恋愛関係に鈍感であることによって成立する、
実際に男一女複数の関係性が存在するハーレム、
ギャルゲ型ハーレムは、一体一の恋愛関係が「並列」=「パラレル」に存在する、
あくまで一体一の恋愛関係なのです。



で、「わたしたちの田村くん」一巻の話に戻りますが、
これはギャルゲのシナリオを、「並列」ではなく「直列」に結んだもの。
第一話の松澤シナリオの最後で、告白などを行わずに引っ越しで離れさせ、
時系列がその後の相馬シナリオで、松澤の存在を忘れて別の恋愛をしてしまう。
で、一巻のラストが松澤からの手紙「相馬さんって、誰?」で締めると。


ギャルゲ型ハーレムをラノベに移植した際の捩れから、
ラノベ型でもギャルゲ型でもない、男一女複数のラブコメが成立した、
少なくとも、俺は寡聞にして他の例を知らないので、これは革新的なことだと思う。



まぁ、そんな風に語ったところで、
この作品がヒットしたのはツンデレブームとイラストのおかげだろうし、
まだ2巻を読んでないので、革新的なんて言えるんだとは思いますけどね。


ギャルゲのアニメ化でも、並列的の存在していたサブヒロインの扱いは難しいですが、
最初から並列化できないラノベならではの現象として、興味深いものだと思うのですよ。




<追記>
長ッ。